民際センタースタッフ 冨田直樹のカンボジア出張報告④ ~職業訓練校と生徒の進路先~
ユニセフの統計によれば、カンボジアの2008~2011年の中学純就学率は男子36%、女子39%。
さらに出張報告②で示した表からもわかるように、中学校に就学しても留年・ドロップアウトする生徒が少なくなく、中学校を卒業できる生徒はさらに減ってしまいます(卒業できるのは、学齢期の生徒10人に3人程度でしょうか)。
では、ようやく中学を卒業したとして、その後、どのような進路を歩むのでしょうか?
残念ながら、その統計は手元にありませんが、生徒の皆さんに質問した限り、ほとんどの生徒は「希望としては大学に行きたい」と言っていたので、普通課の高校への就学を希望しているようです。しかし、大学まで進む生徒はさらにほんの一握り。
普通課の高校卒業では彼らが希望する先生や看護士になることはできず、また、企業の数は非常に少ないので選択肢は限られ、さらに、普通課ゆえ手に技術を持たないので、靴工場か縫製工場で単純労働をする以外の仕事を得るのは難しいようです。
しかし、普通課の高校ではなく職業訓練校に進むのでしたら技術を習得でき、卒業後の就職に困らず、その技術を生かした仕事に就くことができます。
カンポート県からシアヌークビルに入ったところにある職業訓練校は、高校(3年間)と短大(2年間)のコースがあり、2010年には大学のコース(4年間)も設置しました。
高校のレベルでは自動車整備、建設、電気、コンピューター、会計、サービスなどのコースがあり、例えば電気のコースを卒業すると、建設中のビルの1フロアの電気の配線工事ができるようになるそうです。
同校の校長先生は「シアヌークビルはアンコールワットに次いでカンボジアで2番目に大きい観光地で、ホテル建設の需要もあるので就職には困りません」と言っていました。
しかも(成績にもよりますが)2年目から奨学金を受けることができ、その場合は授業料を支払わなくてもよいそうです。
さらに、村から通う生徒は同校の寮に無料で住むことができます。
ただし、食事は自分で賄わなければなりません。食費代を支払うため、1日の半分は仕事をしなければならない生徒もいます。
食費が払えず、学校をドロップアウトする生徒もいます。
卒業後「就職には困らない」と校長先生は言いましたが、それにもかかわらず、今回訪問した3つの職業訓練校はどこも生徒集めに苦労していました。
その理由の1つは、中学生が職業訓練校についての情報をあまりもっていないこと。もう1つの理由は、工場で働くことに良くない印象をもっているからです。
<縫製工場にトラックで通勤するプノンペン近郊の労働者。
東京のラッシュアワー並みの混雑。運賃は月15ドルぐらい。ほとんどが女性>
カンボジアで一昨年、激しい労働争議が発生しました。
2013年5月の最低賃金は月約60ドルでしたが、これでは生活できないと各工場の労働者が小労働組合を結成し、160ドルを掲げてデモを行いました。
デモは日に日に大規模で過激になり、ついに治安部隊と衝突して3名が死亡。
結局、現時点では110ドル、2018年には160ドルにすることで妥協しました。しかし、現在の月給110ドルで生活できるのでしょうか?
プノンペンで暮す場合、通勤に月15ドル、食費が1回0.5ドルとして1日3回で45ドル、家賃50ドルとすれば、これだけで月110ドル。
電気水道などの光熱費も教育費も病気をしたときの治療費も支払い不可能です。
しかも労働環境が必ずしも良いとは言えず、工場によっては換気システムや空調設備が劣悪で食堂もなく、蒸し暑く汚れた空気の中で1日中立ち働き、食事は暑い外で取るような工場もあります。
工場に勤める近隣のお兄さん、お姉さんからこうした状況を聞く生徒たちは、だから、できたら工場では働きたくないと考えます。
出張報告②で中学生がテレビのニュース番組を見ると書きましたが、その理由の1つは卒業後の彼らの生活とテレビで報道されるニュースがとても関連しているからでしょう)。奨学生のお母さんの中には、プノンペンで暮し、縫製工場で働く娘から仕送りのお金が来ると思ったら、逆に米を送らなければならないと嘆いていた人もいました。
シアヌークビルの職業訓練校には、上記以外にもう一つ4ヶ月の短期コースがあり、コンピューター、電気、自動車整備、縫製、動物の世話などのコースが設置されています。このコースを卒業しても高卒の資格を得ることはできないので、コース終了後は自営業か家族経営の家内工業で仕事を得ることになります。
私が会った生徒3人はそれぞれ家庭の事情で学校を中退してしまいましたが、民際センターが試験的に奨学金を提供して、学校の寮で生活しながら裁縫を勉強していました。
再び学校で勉強できる喜びに目を輝かせていたチェンは、「私が学ぶ裁縫コースはとても有益です。ただ期間が4ヶ月では勉強する量は限られています。また支援を受けて次のステップに進んで続けて勉強したいです」と希望を述べていました。
しかし4ヶ月コースは生徒が集まらないと開設されません。
この3人が次のコースに進む場合、彼らを支援しても良いと複数の方に手を上げていただきましたが、現時点で生徒が集まらず、今のところ開設の目途は立っていません。
<14歳のチェン・マリー。小5で中退>
<27歳のソム・ヤーン。高3で中退>
4ヶ月コースの奨学金は、民際センターのこれまでの奨学金にはない、人生再チャレンジの支援です。
中学校に行けない生徒やドロップアウトした生徒の膨大な数を考えると、とても必要なコースのように思えるのですが、4ヶ月で300~400ドルの学費・寮費を支払う余裕が彼らにはないのです。
― カンボジア出張報告は、これで終わります ―