ラオス リサイクルプロジェクト 裏話
6月5日㈪は世界環境デーです。環境保全に対する関心と認知度を高める日として制定されたこの日と続くウィーク。民際センターでは奨学金事業のほか、プロジェクトを通して様々なSDGs項目の達成を目指していますが、その中の一つに、特に環境に配慮したラオス リサイクルプロジェクト(旧名:生ごみ処理プロジェクト)があります。
ラオスの学校にバクテリアを利用した生ごみ処理システム「バイオダイジェスター」を設置することで、ラオスの子どもたちが実践的に環境問題について取り組み、学べるこのリサイクルプロジェクト。副産物として得られるバイオガスと液体肥料を活用し、調理用ガスにしたり作物の肥料にしたりとラオスの人々の生活も豊かにできるのがこのプロジェクトの魅力です。この記事では、リサイクルプロジェクトが生まれるまでどういう経緯があったのか?ラオス事業所の想いとは?といったプロジェクトの裏話をお伝えいたします。
ラオス カムヒアン所長の想い
2006年から17年民際センターのラオス事業所に勤めるカムヒアン・インタバ所長。私(執筆担当)がカムヒアン所長からプロジェクトについて伺った日は5月中旬。ラオスの外気温は42度だけど体感温度は48度だと笑いながら話してくれました。湿度などの条件は違えど、日本では40度を超えると猛暑日とされます。カムヒアン所長のユーモアのある話し方に、体感温度48度の世界はどれだけ過酷な日差しなのだろう、と想像力を掻き立てられました。
昨年カムヒアン所長がリサイクルプロジェクトについて提案した際、彼の一番の動機は環境問題への強い関心でした。今のラオスのごみ問題は解決すべき課題であり、より多くの人を巻き込むようなプロジェクトを、そして子どもたちに地球温暖化や気候変動についての気づきを与えるプロジェクトを作りたい―そこにカムヒアン所長の想いがありました。
バイオダイジェスターの外観。平べったいテントのような形状で、全面に投入口がついています。
(日本事務所)
「リサイクルプロジェクトでは、バイオダイジェスターを使って家庭の生ごみをバクテリアで処理する(詳しくはプロジェクトページ参照)とのことですが、とても新しい試みですね」
(カムヒアン所長)
「いえ、実をいうとこれは特に新しいアイディアではないのです。10年ほど前に似たような仕組みのリサイクル設備を自分たちで作ったことがありました。
それはコンクリートを使用した大がかりなもので、同じようにリサイクルにより生ごみから再生エネルギーを取り出す”Tank Biogas System”と呼ばれるものでした。その時採用した構造を具体的に言うと、地面に埋められたコンクリートの槽で、養豚場の協力を得て豚の排泄物をバクテリア(タネ)に使っていました。
でも、見た目に割れた部分が一切ないのに、しばらくするとどこからか発酵した内容物が漏れてきてしまったのです。結果的に、地面から凄い臭いがしてくるようになりました。失敗したのです。その後、システムの複雑な構造ゆえに農家は同じものに対して二度と協力してくれませんでした。」
(日本事務所)
「ビニールを使ったバイオダイジェスターのアイディアは、カムヒアン所長が見つけてきたんですか?」
(カムヒアン所長)
「UNDP(国連開発計画)のプログラムで、今のようなバイオダイジェスターを使った取り組みがあることを知ったのです。中で投入した生ごみを発酵させ再生エネルギーを取り出すために高い気温が必要だと知り、ラオスに適しているプロジェクトだと思いました。しかも、建設物ではなくて設置型なので、地面の中にコンクリートの層を作るといった工事がいらないのです。」
何度でもリセット可能な仕組み
(日本事務所)
「でも、このビニールの中に生ごみを投入するだけなんて、使っていていきなり機能しなくなることもあるのではないですか?」
(カムヒアン所長)
「機能しなくなったら、もう一度中に水とバクテリアを投入します。それで、何度でもリセットができるんです。」
(日本事務所)
「バクテリア?」
(カムヒアン所長)
「動物のフンですよ!」
都内に住んでいると農業とあまり関わることがなく、動物のフンと聞くと驚いてしまうのですが、国民の大半が農業従事者のラオスではいつでも調達可能な身近なものなのでしょう。
使うフンは、牛からもらうということでした。カムヒアン所長は笑いながら、「このバイオダイジェスターは牛の体内と同じですよ。タネを投入して2週間でメタンガスが得られます。生きている牛も、メタンガスをげっぷで放出しますからね。」牛のげっぷは地球温暖化の原因とされていますが、バイオダイジェスターから得られるメタンガスは、ホースでコンロにつなぐことで調理用ガスとして活用することができます。
バイオダイジェスターの仕組みと副産物(バイオガスと液体肥料)
(カムヒアン所長)
「コンロ無しで、調理のための火を起こすというのは大変な仕事です。火にくべるための木を集めたり、薪を割らないといけません。最近では木があまり落ちていない場合、木炭をお金を出して買う人もいます。」
火おこしの経験が無い私はカムヒアン所長の話を聞いて、”firewood” (薪)と”charcoal”(木炭)の違いがわかりませんでした。「どちらも同じ切った木ですよね?」と聞く私にカムヒアン所長は戸惑いながら「木炭は黒っぽい色をした、炭化した木ですよ」と教えてくれました。日頃民際センターが支援している地域の文化や暮らしにアンテナを立てているつもりでも、まだまだ知らないことがあるのだと痛感した瞬間でした。後で調べて分かったのですが、薪に比べて木炭のほうが火を安定して使えるそうです。ただ、木炭は作るのには数日を要するということでした。木炭を買う費用や火をくべる手間を考えると、コンロというのは大変便利なものです。民際センターにはベトナム国籍の職員がいますが、彼はベトナムで小さいころよく火起こしをしていて、それは大変な作業だったそうです。
バイオガスを得られるというのはバイオダイジェスター活用によるメリットの一つです。コンロにつないで1日2時間ほど使えるというこの調理用ガスにより、ラオスの女性が火起こし仕事から解放されます。カムヒアン所長は、このプロジェクトは1回だけで終わらせるのではなく、ラオスの環境のためにいろんな学校で実践し数多く展開したいと語っています。本プロジェクトの大目標はラオスの子どもたちがリサイクルを通じて環境問題を実践的に学ぶことですが、バイオガスの活用も含めて様々な面でラオスの人々の生活を豊かにすることができます。ぜひ、プロジェクトの詳しい説明を下記リンク先からご覧ください。